社会にはLGBTの方々に対する見えない壁がまだまだ存在しますが、その壁を取り除く重要な一歩がLGBT理解増進法です。
多様性を受け入れ、平等な社会を実現するための法律の概要と、我々ができることは何かを見つめ直しましょう。
この記事では、法律が目指すものとそれによって何が変わるのかを明確にしていきます。
目次と簡単なまとめ
・ LGBT理解増進法とは?
性的指向およびジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神を、むりなくゆっくりと育み、寛容な社会の実現に役立てるための法律
・ヘイトクライムに対して
ヘイトクライムに対する法律は無い(2024年5月時点)
・同性カップルの権利保護
現行法では、彼らは配偶者として認められていない。
問題を解決するため、婚姻平等法案が議論されている。
・セクシャルマイノリティと教育
教育界全体でセクシャルマイノリティへの理解を深める環境整備が急務であると云われている。
・性的指向とジェンダー差別
差別や偏見はまだ根強く存在している。
法改正、個人の意識改革や、社会全体の取り組みも不可欠。
・最後に筆者のおもいを
自己を表現することが尊重される社会の実現に向けたおもい等を綴っています。
LGBT理解増進法とは?
2024年時点で、LGBT理解増進法(以下LGBT法という)についてのニュース記事などを見て、法律に関心を持つ人が増えています。
そもそもは、2021年の東京オリンピック・パラリンピック開催前に、自民党を含む超党派の「LGBTに関する課題を考える議員連盟」で法案が合意され、成立を目指していましたが、野党だけでなく与党自民党からも批判や反対意見が出たため、国会への法案の提出は見送られました。
2022年6月に立憲民主党が「LGBT差別解消法案」を衆院に再提出後、2023年の広島サミットまでの立法を目指して話し合いが重ねられました。
当時の首相秘書官の差別的な発言が国内だけでなく、海外のメディアでもニュースとして報じられるなどしながら成立しました。
LGBT法を簡単にまとめると以下の通りです。
〇目的
性的指向およびジェンダーアイデンティティの多様性を受け入れる精神を、むりなくゆっくりと育み、寛容な社会の実現に役立てる。
〇そのためにやること
・基本理念を定める。
・国および地方公共団体の役割などを明らかにする。
・基本計画を策定する。
・その他の必要な事項を定める。
たとえば、
・学校、企業での教育、相談体制の整備につとめる。
・企業での研修、相談体制の整備につとめる。
〇権利または義務は新たに生じるのか?
なんらかの権利を取得することも、義務を負うことも無い。
〇差別について
・LGBT法は差別を禁止するものではなく、多様性に対する理解を深め、寛容な社会の実現に役立てるもの。
・差別は、そもそも憲法で禁止されている。
〇公衆浴場・銭湯などの利用ルールについて
今まで通り。
・男女の区分は、身体的な特徴を持って判断する。
・施設管理者の指示に反した場合、適切に対応される。
歴史的に見て、性的マイノリティへの理解は長い間、社会の周縁にとどまっていたといえるのではないでしゅうか。
しかし、世界的にも人権の観点から性的指向や性自認に基づく差別に対する意識が変わり、多くの国で法的な保護措置が取られるようになってきています。
日本においても、LGBT法の成立は、社会全体の価値観が多様性を広く受け入れる方向へと進んでいることを物語っているのではないでしょうか。
LGBT法は、性的マイノリティが抱える課題に対する公的な対応を象徴し、社会に深遠な影響を与えるものとなるでしょう。
法律が施行されることで、LGBTの方々にとっての生活の質が向上し、すべての人が公平に扱われる社会へと前進することが期待されています。
ヘイトクライムに対して
2024年5月時点では、ヘイトクライムに対する法律はありません。
そのため、特定の人種、民族、宗教、性的指向などに対する差別行為である、ヘイトクライムへの対策の必要性が議論されています。
議論が進めば社会全体の意識が変わり、法律をはじめとした制度面の整備が重要な鍵となるでしょう。
差別への明確な対抗姿勢として、国や自治体、企業、一般市民が連携し、ヘイトクライム撲滅のための施策を推し進めていくことが重要です。
LGBTの方々に対する、差別に基づく犯罪であるヘイトクライムの実態は、決して他国の事例に限ったことではありません。
国内でも、LGBTの方々が経験する肉体的、心理的な犯罪は、被害者の人生に深刻な影響を及ぼしています。
不当な差別による傷は、個人の自尊心を損ない、生活全般にわたる活力の喪失につながってしまうのです。
社会が不当な差別を放置することは、人間としての基本的な権利を脅かす行為であり、国や地域の包括的で寛容なコミュニティ形成にも悪影響を及ぼします。
そのため、ヘイトクライムの実態を正確に把握し、深刻な影響に対する認識を普及させることが急務です。
LGBT法は、性的指向およびジェンダーアイデンティティの多様性の理解を深めることが目的ですので、間接的にヘイトクライムの防止に寄与する可能性はあります。
しかし、その効果は法律の運用と社会全体の理解に大きく依存します。
法律が適切に運用され、社会全体が性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性を理解し、尊重する環境に変わることができれば、ヘイトクライムの発生を抑制できるのではないでしょうか。
アライとしてできるヘイトクライム対策
アライ(ally)とは、
LGBTを理解し、支援の意思を持ちながら活動している人や団体のことです。
アライは、ヘイトクライムに対して積極的な行動を実践できます。
たとえば、個人レベルでは性的少数者に対する差別に気づいた際に適切なアクションを起こし、周囲に啓発することが可能です。
組織や企業としては、多様性を重視した外部の専門家を交えた社内研修の実施を通して社員の意識向上につながります。
社会全体としては、差別に反対するキャンペーンやイベントに参加し、包括的なコミュニティ形成を目指せます。
アライの行動一つひとつが、ヘイトクライムの撲滅に貢献していくのです。
少子高齢化が進むなか、家族のかたちも多様化しています。
同性カップルもその一つで、彼らが社会で認められ、生活していくための権利保護は重要です。
しかし現行法では、彼らは配偶者として法的に認められておらず、いろいろな問題が発生しています。
具体的には、相続権や病院での面会権、税制面での不利益など、生活に直結する大事な部分での問題。
このような問題を解決するため、婚姻平等法案が現在議論されています。
婚姻平等法案とは、性的指向や性自認に関わらず、すべての人に婚姻の権利を保障しようとするものです。
内容は以下の通りです。
・同性当事者間でも、婚姻が成立することを明らかにする。
・同性カップルも養子縁組ができるようにする。
・男女のカップルを前提とした、「夫婦」「父母」などの文言を、「婚姻の当事者」「親」などと変更する。
同性カップルの権利保護
パートナーシップ制度の導入
同性婚が認められていない現在において、「結婚に相当する関係」であることを証明する「パートナーシップ制度」を、独自に導入する自治体が全国で増えています。
パートナーシップ制度で受けられるサービスの例は以下の通りです。
・病院での面会権
・公営住宅の入居申し込み
・災害時における安否情報提供
・連帯債務での住宅ローン申し込み
パートナーシップ制度は、法的効力が無いなどの問題がありますが、同性婚に向けての一歩として評価する意見もあります。
国際的な結婚と同性カップルの法律関係
グローバル化が進む現在、国をまたいだ結婚も増えています。
同性カップルにおいても、国際的な結婚は珍しくなくなってきていますが、日本では認められていません。
たとえ、同性婚が認められる国で結婚したとしてもです。
そのため、ビザの取得や滞在資格など、国際的な法的認知が必要な事項においても、多くの壁にぶつかっています。
今後は、こうした国際結婚における法的な扱いも見直し、同性カップルが国境を越えても、安心して生活できるような制度の整備が期待されています。
それは、日本が国際社会の一員として、多様性を認める国であると示すことにもつながるのではないでしょうか。
世界に注目すると、多くの国と地域でLGBTQ+の権利を保護するための法律や政策が存在します。
いつ成立し、何が日本とは違うのかとい視点で、以下にいくつかの例を挙げます。
・オランダ
2001年に世界で初めて、同性婚を合法化しました。
・スペイン
2005年にカトリック教国では初めて、同性婚を法的に認めました。
さらに2007年には、性別と名前を変更できる法律を可決しました。
・デンマーク
1989年に、同性カップルに結婚とほとんど同じ権利が認められる「登録パートナーシップ制度」が、世界で初めて導入されました。
2012年には、法律上での完全な同性婚が認められています。
・台湾
2019年に、アジアの国・地域で初めて、同性婚が法的に認められました。
このように、世界のさまざまな国や地域が、LGBTQ+の権利を保護するための法律や政策を導入している中、文化、宗教、社会的背景が異なることにより、保護する法律が存在しない、十分に実施されていない場合もあります。
セクシャルマイノリティと教育
セクシャルマイノリティが直面している課題のなかでも、教育の問題は非常に難しいものがあります。
教育現場での理解が進まないと、子どもたちが自己の性について健やかに理解し、受け入れることが難しくなりかねません。
また、教育を受けるセクシャルマイノリティの生徒への配慮が不足すると、心の健康を害する大きな要因となってしまいます。
このような問題に対応するため、教育界全体でセクシャルマイノリティへの理解を深める環境整備が何よりも急務であると云われています。
セクシャルマイノリティの生徒たちが、教育の現場で直面している問題も以下のようにあります。
・教育カリキュラムに、ジェンダーの多様性や、セクシャルマイノリティに関する内容を盛り込んでいない。
・同性愛や性の多様性を理解する機会が少なく、 偏見や誤解が生まれやすい環境。
・生徒、教師双方に対する、セクシャルマイノリティへの理解促進プログラムが無いため、いじめや差別が生じやすい。
・学校生活のなかでの、トイレや更衣室の問題も生じており、トランスジェンダーの生徒たちが、自分の性に合った施設を利用することに困難を感じるケース
教育における性の多様性への理解を促進するためには、学校だけでなく社会全体での取り組みが必要ではないでしょうか。
セクシャルマイノリティに関する、正確な情報を提供し議論や疑問に対するデスカッションの機会を持つことが大切と考えます。
各々がそれぞれの性を理解し、尊重する考えを身につけられる教育プログラムの充実が求められます。
また、生徒同士のコミュニケーションを促進することで相互理解が深まる機会を設け、すべての生徒が安心して学べる環境作りを目指すことも大切ではないでしょうか。
性的指向とジェンダー差別
性的指向やジェンダーが多様であることは、少しずつ認知されてきてはいますが、差別や偏見はまだ根強く存在しています。
性的マイノリティやジェンダーの違いに対する差別への対応は、法改正はもちろんのこと、個人の意識改革や社会全体の取り組みも不可欠です。
ここでは、性的指向とジェンダーに関する差別にどう立ち向かうべきかについて考えてみたいと思います。
性的指向に基づく差別の現状を見ると、就職面接や職場内での冷やかし、マイノリティに対する偏見が数多く報告されています。
また、パートナーとしての関係を公的に認められないことから生じる経済的不利益。
こうした問題は、当事者への精神的な負担はもちろん、社会全体の多様性の受容にも大きな影響を与えています。
法的保護の不備や、多様性への理解が浸透していない以上、これらの問題に真摯に向き合うことが求められています。
ジェンダー差別解消のためには、実効性のある罰則の設定などの法的アプローチが必要と云われています。
法的枠組みの強化だけでなく、性別による役割の固定観念を捨てるなど、社会システムの再整備も同時に進めなければならないでしょう。
差別撤廃への具体的なステップを3つ提案したいと思います。
1.教育の場において、性的指向やジェンダーの多様性についての理解を深め、偏見や差別が無く育つ環境を整備する。
2.企業や団体がダイバーシティポリシーを明確にし、職場環境で推進する。
3.国や自治体が、差別に対する罰則を設けることで、法的な保護を強化していく。
最後に筆者のおもいを
我々の社会は、今大きな変革の時を迎えていると私は思っています。
その理由の一つが、LGBT法の成立です。
この法律は、ジェンダーアイデンティティや性的指向に関する理解を深め、すべての国民が尊重される社会の実現を目的としています。
LGBT法が、同性婚の合法化への第一歩となれば、同性カップルの人々も結婚の喜びを得られることでしょう。
同性婚が認められることにより、関連する事業や仕事が新たに生まれ、経済に動きが出るかもしれません。
しかし、社会の影響を考え、一部の人々から懸念や反発の声もあがっています。
とくに、伝統的な家族の価値観を持つ人々や、女性、男性だけという男女二元論、
宗教的な観点からこれらの変更に反対する人々もいます。
賛成・反対の意見、問題点あるいはデメリットは、FacebookやX(旧Twitter)などのSNS、オピニオンコラムの特集や解説をしているサイトや本から得られます。
多数派だけでなく少数派の声も含め、さまざまな声に留意する意味で触れてみてください。
(私は最近、医療の現場からの視点で書かれた「医療者のためのLGBTQ講座」を読みました。)
東京や福岡などで開催されている、レインボープライドに参加してみても得るものはあるかと思います。
世界のスポーツ界に目を向けると、同性愛者に対する差別発言に厳しく対処するようになってきています。
自身が性的マイノリティであることを公表し、積極的に情報を発信しているアスリートもいます。
「誰もが生きやすい社会になってほしい」という思いから、自身がLGBT当事者であることをカミングアウトする方々も少しずつ現れてきています。
YouTubeに動画をあげている方々もいるので、一度見てみてはいかがでしょう。
政治の世界では、自民、国民民主党、日本維新の会というくくりでは無く、超党派で与野党が結束してこの問題にあたることを深く望みます。
少し気になることではありますが、日本総研の市瀬氏によれば、2022年のアメリカの中間選挙から2024年の大統領選挙の共和党の重点政策が、「中絶」から、「LGBT(トランスジェンダー)」にシフトしているそうです。
アメリカの動向が日本に与える影響は無視できないでしょう。
LGBT法は、我々の社会に大きな変化をもたらします。
しかし、その変化を理解し受け入れるためには、我々一人ひとりがその意味を理解し、何が必要なのかを考えることが重要ではないでしょうか。
もし、あなたがなんらかの組織のトップなのであれば、率先してあなたが変わることで、組織に属するみんなも影響を受けるかもしれません。
みんなの意識が変われば、組織の規定を追加したり修正するなどし、社会にその意思を表現してみてはいかがでしょうか。
この法律の成功は、我々国民すべての協力と理解によって支えられます。
理念の共有、留意すべき点の理解、そして対話の重要性を理解することが求められていると私は考えています。
ジェンダーアイデンティティの自由な表現が保障され、自己を表現することが尊重される
当たり前の社会の実現を目指して。
参考
e-Gov法令検索|性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律
内閣府|性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進
自由民主党|LGBT理解増進法が成立 政府に基本計画の策定等求める | お知らせ | ニュース |
立憲民主党|LGBT理解増進法案を国会へ提出
立憲民主党|婚姻平等法案を国会へ提出